不動産を売買によって取得した場合、どうして登記をしなければならないのでしょうか。売買契約を締結し、代金の支払いを済ませただけでは所有者になれないのでしょうか。
 次の事例に基づいて、ご説明いたします。

〈事例〉

 Aさんは、甲さんから土地と建物(以下、「本件不動産」という)を購入することに決め、売買契約を締結し、代金の支払いを済ませ、引っ越しました。しかし、Aさんは名義変更の登記をせず、登記名義は甲さんのままでした。
 その後、甲さんは、Bさんから本件不動産を買いたいとの申し込みを受け、登記名義が甲さんのままであることをいいことに、Bさんとも売買契約を締結し、代金を受けとりました。そして、Bさんを登記名義人とする名義変更の登記をしました。
 この登記完了後、Aさんは、Bさんから「この家は私のものだから出ていってほしい」と言われました。さて、Aさんはどうなってしまうのでしょうか?

「対抗要件」としての登記

 売買契約は「売ります」「買います」という意思表示の合致のみで有効に成立し(民法555条)、原則として、意思表示があった時に所有権は移転します(民法176条)。
 上記の事例の場合、甲とAの売買契約は有効に成立しているので、契約を締結した時点でAが所有権を取得したことになります。
 一方、民法177条では、「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない」と規定されております。この規定を本事例にあてはめると、「不動産の所有権の取得は、不動産登記法に従って、その登記をしなければ、第三者に自分が所有者であることを対抗(主張)することができない」ということになります。従って、Aは名義変更登記をしていないので、第三者であるBに本件不動産につき自分が所有者であることを主張することができません。また逆にBは名義変更登記をしたことで、第三者であるAに本件不動産につき自分が所有者であることを主張することができ、その結果、Aは家を出ていかなければならないということになります。
 不条理のように感じるかもしれませんが、不動産取引においては、取引の安全の保護を図るため、登記をすることによって権利の内容を明確にし、二重譲渡等のトラブルを回避する仕組みとなっているのです。このように、登記はとても重要な役割を果たしています。
 もっとも、甲は売買契約の直接の相手方なので第三者に該当せず、Aは甲に本件不動産につき自分が所有者であることを主張することはできます。しかし、上記のとおりBが名義変更登記をしたことにより、Bとの関係では、Aは本件不動産の引渡しを拒むことはできなくなるのです。
 では、売買代金をすでに支払っているAはどのようにしたらよいかが問題となりますが、Aは、甲に対し売買代金の返還や損害賠償請求をすることができます(ただ、甲が行方不明であったり、すでに売買代金を費消していた場合には、仮に訴訟を提起して勝訴判決を得ても、すでに支払った売買代金の返還や損害賠償金を支払ってもらうことは難しいでしょう。売買代金の返還や損害賠償を請求することができることと、甲から実際にお金を返してもらえるかどうかは別問題です)。
 このようなことが起きないようにするためにも、不動産の権利関係に変更があった場合には、すぐに登記をしておくべきなのです。

 Aさんのようなことが起きないようにするためにも、家や土地を売買した等、不動産の権利関係に変更があった場合には、速やかに登記を行うべきなのです。

【登記に必要となる手続き・書類等は事案により異なりますので、司法書士法人レラ・カンテへお問い合わせください。】